「前の待ち」と「横の待ち」対決
  前回の「技術論」で既報のように、北京オリンピックの女子個人戦で福原愛とチャン・イニンが4回戦で対戦した。結果は、実力どおりに収束したとみていいだろう。

 これから二人のプレーについて解説するが、日本のとくに女子のプレーヤーは「福原」を「わたし」のこと、自分のことだと思ってイメージしていただきたい。

 予想のごとく、「前の待ち」の福原と「横の待ち」のチャンという好対照のプレースタイルが真っ向からぶつかった。その典型的な例が、バックハンドとバックハンドの対決である。愛ちゃんがライジングで速いピッチで攻めるものの、チャンは台から半歩下がってボールを引きつけ、トップスピンで応戦するというラリー展開だ。
 ゲームにおいてバック対バックというラリーは男女とも非常に多い。なぜかといえば、安易に相手のフォアコーナーにリターンすると、フォアハンドの強打や強ドライブで攻撃を浴びて、一発でやられてしまう危険性があるからだ。そのため、まず相手のバックサイドを突くことが必然的に多くなる。
 男子の場合はバックサイドのボールもフォアハンドで回り込むケースが多いが、女子では80%以上はバックハンドで対応している。そのため、女子の右対右の対戦では、バックハンド対バックハンドのラリーになることがものすごく多い。だから、女子の対戦は、このバックハンド対決が勝負の行方を決定するといってもいいだろう。
 そのバックハンドもほとんどハーフボレーである。ハーフボレーといっても、愛ちゃんはバック面の表ソフトラバーを活かしてのライジング打法、一方のチャンは頂点でトップスピンをかけて打球するという大きく二種類の打法がある。
 この両者の打球の距離の取り方に、「前の待ち」と「横の待ち」の特徴が表れている。「前の待ち」の愛ちゃんのライジング打法は、相手に時間を与えないが、自分も打球するまでの時間が短い。「横の待ち」のチャンの引きつけてトップスピンでリターンする打法は、相手に時間を与えるが、自分も打球するまでの時間が長くなる。
 この時間的な差というのは、10分の1秒から100分の1秒という瞬間的な時間差だが、レベルが高くなるにつれこれはとても大きなポイントとなる。
 ここで福原とチャンのどちらのプレースタイルが優位なのかをいいたいわけではない。チャンが圧勝したのは、自分のプレースタイルを徹底的に磨いたところにあり、福原が負けたのは、自分のプレースタイルがまだ中途半端というか成熟過程にあると見る。福原がチャンのようなプレースタイルを指向しろとはけっして言わない。ただ、もし福原がいまのプレースタイルを貫徹するのなら、つぎの点を錬磨する必要があることは間違いない。
 まず、バックハンド対バックスイングのラリーになったら、どちらが先にストレートコースを突けるかである。この点、チャンは余裕をもって福原のストレートにリターンしていた。

先にストレートを突け!
 バック対バックのクロスラリーからストレートにコースを切り替えてリターンするのは、それなりの技術力が要求される。とくに相手ボールが深く速ければ、ストレートに打つことはたやすいことではない。そのようなボールをストレートに打つと、打球に圧されてオーバーミスがでやすいからだ。
 その理由は2点。まず、クロスよりもストレートのほうが、コース距離が短いため。さらにストレート方向にリターンしようとすると、バックハンド面が外に開くように打球するためボールの威力に負けやすくなるからだ。
 しかし、こんなことは卓球をする以上わかりきったことなので、レベルアップしようとすれば、これを克服するしかない。そして、ごく単純にいえば、チャンはこれを克服し、福原は克服していないというか克服過程にある。
 チャンとの対戦以外にも愛ちゃんの試合を観ていていつも思うのは、なぜもっとストレートを突かないのかということだ。バック対バックのラリーでは先にストレートを突いたほうが絶対に優位なのはわかっていることなのに、愛ちゃんはほとんどクロスに終始する。もちろん、ストレートコースを突くには勇気もいるし危険性もあるが、この技術を確実に自分のものにしないと、チャンにかぎらずどの対戦相手にもなかなか優位に立てないだろう。

表の特長を活かしてナックルとサイド攻撃を!
 さらに、せっかく表ソフトラバーを貼っているのだから、その特長をもっと活かすべきだろう。それはナックルを使うということ、それにサイドを切るということである。しかも、これを高速のラリー戦やチャンのように伸びてくるボールに対しても使えることだ。
 表ラバーはちょっとした打球のタイミングや会場の湿度の関係でも、ナチュラルナックルとでもいうか、ふつうに打ってもナックルになることが多い。だからナックルボールを出しやすいラバーといえる。
 ただナックルといっても、遅いナックルではレベルが上がるにしたがって通用しなくてなってくる。ぜひ、高速ナックルを身に着けたい。これももちろんそれなりの技術力は必要だが、意識的にマスターしようとすればそれほど難しい技術ではない。
 また、もっともっと相手のバックサイドを切るようにしたほうがいい。対チャン戦では、バック対バックでなかなか打ち抜けなかったが、唯一福原のバックハンド強打がサイドを切ったとき、チャンからポイントを取っていた。
 このサイドを切るのは、また表ラバーの得意とするところだ。ナックルボール、さらにサイドを切るためには、バックハンド・ハーフボレーを水平打法にすれば容易となる。右利きならボールの左側面を水平にスイングするのだ。スイングの方法だが、ラケット面は台に対して垂直に立てて、ヒジを軸にして、バックスイングは水平に引き、相手のボールがネットの高さのところでそのままフラット(水平)に打球する。この打法に慣れていない人はネットミスが怖いだろうが、練習ではネットにかけてもまったく問題ない。オーバーミスよくないが、ネットミスはいいというくらい、思いきって水平にスイングしてもらいたい。

愛ちゃん、第4ゲームの精神をこれからも貫け!
 福原とチャンとの一戦で、後半になるとチャンは対バックラリーから、福原のライジングにタイミングを合わせて強打するようになった。これは明らかに福原のボールに慣れてきたためで、かなり余裕をもってねらいすまして強打していたように見える。福原のあのボールを、あのように強打できるのはチャンの技術力のすごいところである。ふだんの練習レベルと量が高くなければあのような強打はできないだろう。
 福原の弱点ばかりをピックアップしたようだが、福原は第4ゲームを取ったが、あれが自分の実力だと信じて、またあのようなプレーがいつでもできるように練習に励んでもらいたい。第4ゲームでは、バックもフォアも高速ピッチのライジング打法に徹して、しかもフォアクロスの強打はサイドを切った打球を思いきって打っていた。これにはさすがのチャンもリターンすることができなかった。
 まあ、勝負の行方をほぼ決着していたので、第4ゲームから「私には失うものは何もない」というごとく、思いきりのよい強打が炸裂したが、あのような攻撃であれば、あのチャンからも1ゲームを奪取することができるのだ。このことを愛ちゃんは、よく覚えておいたほうがいい。できるなら、どんな試合にもあの第4ゲームのような心構えで臨むなら、いまぶちあたっているカベを越えることができる。そうなればもちろん、鬼門の全日本も勝ち抜くことができるだろう。
 愛ちゃんには、以上のことを踏まえて、以下の点をぜひ修正してもらいたい。
●バックハンドのハーフボレーだが、手首で押すようにスイングしすぎる。あの打法では威力が出ないだろう。ヒジを支点として、押すのではなく、半円状に振るようにすればもっとスピードが出るし、サイドも切れるだろう。
●フォアハンドは強打もブロックもトップスピンでリターンすることがほとんどだが、フォアハンドもバックハンド・ハーフボレーのようにライジングに徹して、水平打法にしたらどうだろうか。いまのプレースタイルは、バックハンドとフォアハンドではタイプがちがって、ボールを待つスタンスが齟齬がでて、やりにくいのではないか。

 冒頭に述べたように、この福原を自分に置き換えて読んでいただきたい。
 近日中に、北京オリンピック観戦・その2「対カットマン」をアップします。

                     秋場龍一

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