遅ればせながら、水谷選手の8月開催の「韓国オープン」シングルス優勝の賛辞を贈るとともに、その試合ぶりについて分析してみました。

「A」の答えでも述べていますように、この間の水谷の活躍について、その評価と分析を展開しなくてはと思いつつ、ついつい先延ばしにしていたところ、以下のようなグッドタイミングのメールをいただき、これは絶好の機会だと述べてみた次第です。


Q こんにちは、秋場さん。私○○○○と申します。といっても何回も質問させていただいていますので、名前などを覚えられているかも知れません。

前回の台上ドライブ、中国卓球の事やワルドナー選手の質問など毎回、的確かつご丁寧なお返事をいただき本当にありがとうございます。私自身卓球技術研究所のサイト、送信していただいたメールをチェックしながら良く研究をしました。秋場さんからメールのお返事いただいた内容を見ながら当サイトを見るのが今は本当に楽しみになっています。

実は質問の内容なんですが、水谷隼選手の事で質問があります。以前、秋場さんの記事を見た時に非常に気になる文章を発見しました。チャンイーニン選手の「間」という卓球論の中で書いてあったものなんですが、「水谷選手が今のプレースタイルでいるかぎり私には伸びしろが感じないのです。」とはっきりと書かれていました。

実はこれを見たと思われる方がスレッドなどで議論を起こしていました。実際私自身水谷選手のプレーを初めて生で見た時はものすごいなと感じました。ただ秋場さん自身が何もわかっていない事を書くはずはありません。それだけ卓球技術研究所の理論は的確で論理的だからです。

それにもう一つ気になったのは福原選手にはフォローがあったのに関わらず水谷選手にはないような感じがしました。これは秋場さんの水谷選手の期待の表れかも知れませんが。水谷選手はこの間の韓国オープンでシングルス初優勝、ここ最近ではダブルスでも様々なプロツアーで優勝を飾るようになりました。実力的には間違いなく世界のトップにいると宮崎さんは明言していました。

秋場さんのお考えをお聞かせください。あと私自身の考えを書かせてください。実は先日関東学生リーグに行って参りました、水谷選手の試合を見ていて思ったのは「これでいいのかな…?」という風にプレーを見ていて思ったのです。ダブルスを観戦したのですが後陣からドライブ、ロビングばかりで実際試合になっていない形でした。あれが相手が陳紀選手や馬龍選手だったら?と考えるとゾッとします…。

プロリーグにもう一度行ったほういいんではないかと自分は思いました。今の段階では松平選手や兄の賢二選手、吉田選手、上田選手などに負けてしまうんじゃないかと心配です。水谷選手はサインにも気軽に応じてくれ、負けた後も相手の事を悪く言ったりしない選手です。今後彼の伸びしろによって「打倒中国」が左右されると思うんです。だからこそ今回秋場さんにメールを送る事にしました。よろしくお願いします。

 

 

水谷選手についてですが、実は韓国オープンで優勝したとき、その感想について述べようと思ったのですが、つい機会を逸してしまっていたのです。今回はいわば渡りに船ですから、水谷についての意見を展開させていただきます。

たしかに「水谷選手が今のプレースタイルでいるかぎり私には伸びしろが感じないのです」と以前に書きました。

水谷は現在の日本男子で実力や潜在能力とも抜きんでたナンバーワンであることは間違いのないところです。既報のように、8月の韓国オープンで水谷は優勝しました。この大会で、韓国オープンの準々決勝で韓国の朱を破ったことが、水谷にとってかなり大きな意義があったと思われます。

カットマンで世界ナンバーワンを破ったことは、この間、水谷の力量が大幅にアップしたあかしとみるべきでしょう。もちろん決勝で中国のハオ帥を破ったこともそうですが、私はそれ以上に朱に勝ったことは大きいと思っています。

水谷のウイークポイントであったパワーが着実に向上した証左であり、また彼のプレースタイルにパワーが充填されれば、世界トップに入ることを許された権利を有したことを意味しています。

水谷と朱、それにハオ帥の決勝戦は映像で観ましたが、以前よりもかなり前でプレーしていました。彼の得意なブロックも、前陣や前中陣で巧みにさばいていましたし、あのようにボールを持てるのは世界でも屈指です。この試合を見るかぎりにおいて、水谷は「伸びしろを感じない」と書いた「今のプレースタイル」ではありません。彼は前述したように、ボールを持てる技術はかなりハイレベルです。

水谷はその抜きんでた技術センスでこれまで伸びてきたのですが、中国や世界トップとのゲームを観るにつけ、その彼独特のセンスが逆に彼の成長を止めているように私の眼には映ったのです。

その典型的な例が、フォアサイドを深く攻められ、すぐに台から下げられて防戦一方という展開です。国内の試合でもこのラリー展開はよく見るのですが、国内ではここから彼の本領が発揮されて得点することが多いのですが、世界トップが相手となると後陣でロビングをあげてしのぎ勝つことなどゆるしてはくれないのです。今回のハオ帥の試合でもこのラリーが何本かあって、ハオ帥はけっこうミスっていましたが、次回の対戦では絶対にこうはいかないはずです。

今回の水谷の勝利は、前で戦ったこと、前で戦おうと意識したことが、導いたことなのです。今回の水谷の試合のプレーを観ていて、「男子版・張(チャン・イニン)」を彷彿させました。前陣でボールを待つ能力は素晴らしいの一言です。

また、水谷の課題もこの試合で見つかりました。

1. 前陣・前中陣でラリー中に、バックからフォアへの切り替えが遅い。
彼のバックハンドは肘の位置が高く、それはとってもいいのですが、そこからフォアへの切り替えのとき、バックスイングでラケットが少し下がってしまうことがスムーズな切り替えを邪魔しています。

2. 前陣でツッツキ系のボールをドライブするとき、とくにフォアサイドのボールにたいして打球点を落としすぎる。
これはヨーロッパ選手にもよく見るのですが、ここが中国とヨーロッパの力量を分けている大きなポイントです。

3. あとレシーブが国内では上手く見えるのに、世界の強豪相手ではそうは見えないのです。
台上技術の向上というか、より積極的なフリックを指向しないとレシーブにまわったとき、なかなか優位な展開に持ち込めないでしょう。

それにしても、日本男子は楽しみです。水谷、松平健、丹羽が組む団体は面白そうだし、水谷・岸川のダブルスは、今度は中国に勝てるかもしれないし、もちろん、シングルスでも岸川は可能性はあるし、吉田もまだまだ成長する能力を秘めているはずです。

ロンドンオリンピックはひょっとしたら……。いちばん輝くメダルを彼らは手中にするかもしれません。そうなれば、卓球王国・日本の復活です。

卓技研・秋場

【返信】
こんにちは、秋場さん、水谷隼選手についてのお返事いただいた○○○○です。毎回ご丁寧なお返事ありがとうございます。

メールの内容よく読ませていただき私自身の考えを書かせていただきます。水谷選手がジュセヒョク選手に韓国オープンで勝った事はとても大きな事だと思います。実はジュセヒョク選手はプレーしているビデオを私自身持っているのですが、確かに以前の水谷選手のフィジカルでは打ち抜く事は難しいと思います。

「ジュセヒョク選手の最大の特徴はドライブマンを超える攻撃力だ。」とおっしゃる方が多いのですが。そういった方は見せかけだけの「よく拾う」とか「派手さ」にだまされているだけです。

ジュセヒョク選手の本当の特徴はバックカットにあると思います。おそらくバックカットの切れ味は世界でもナンバーワンなのではないのでしょうか。彼と対戦した選手は必ず「彼のバックカットは猛烈に切れている」と口を揃えていいます。僕がビデオを見て驚いたのは手首の強さを生かしたカットのスイングスピードと球の軌道、つまり回転量によるバウンド後の変化でした。実際に肩の弱い選手は故障してしまう程の切れ味だと聞いています。

水谷選手は左利きですから相手のバックサイドにフォアドライブを集めていくケースが多く、ジュセヒョク選手のバックカットに捕ってしまえば大ダメージを受けてしまうからです。実際には何本もフォアドライブをネットに落としてしまうケースが多かったのですが、最後までドライブでしっかりと打ち抜いた事は見事としか言いようがありません。

秋場さんがおっしゃるように確かな成長が彼に見られました。こういった試合を続けていけば彼は世界ランキングで一桁台に突入する事ができると僕は思います。

ハオ帥との試合はまだ中国選手に「勝った」とカウントするには早いと僕は思っているのでこの事については僕は書かないで置こうと僕は思います。ただ一つゆえるのはおそらく中国の中で今後水谷君が倒さなければいけないのは、陳紀、王励勤、馬琳、王皓、馬龍、おそらくこの五人に絞られるんじゃないかと思うんですね、まだ水谷君はこの五人を苦手としている時点でまだ先は遠いでしょう。

でも今回僕にとっても秋場さん、卓球技術研究所を見ている卓球ファンの方からしても水谷君の韓国オープンのシングルス優勝はうれしかったんじゃないかと僕は思います。今回長くなってしまいましたが、また何か発見があれば質問、あるいはメールさせていただきます。今回丁寧のお返事ありがとうございました。 以上よろしくお願いします。

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