今回の「集中論」は、当サイトに寄せられたメールにお答えするという形で展開してみました。
練習で試合で、なぜぎこちない動きになってしまうのか?
こんにちは。再卓と申します。はじめてメールします。いつも、記事を読ませていただいています。色々な攻撃スタイルやラバーの特性のことなど、とても勉強になっています。ありがとうございます。
今日は、表表男さんの、フォアロング練習の第1球目が、体が固まって…の記事の感想と質問を書かせてもらいます。よろしくお願いします。
実は私も全く同じ症状だったのでメールしました。私は、習っている人に、それはイップスかもしれないよと言われたのでそれに関する記事や本など読んだのですが、なかなか治りませんでした。試行錯誤で自分なりに(なんとか?むりやり?)リラックスできる方法を見つけ実践しています。
※症状
・右腕、特に手首が固まって、
・一球目の返球時、ネットにひっかっかたり、ホームラン。
・フォアハンドのみ固まる
・ひどい時はサーブも出せなくなる
(リラックスしようと意識すればするほど固まる)
※自分なりの克服
・家を出る直前に(できる時は練習直前も)1.2分壁打ちする(これで随分安心できました)
・壁打ちの一球目のサーブも固まることがあったので、左手でボールを高めに上げてゆっくり123のタイミングで右手を出す。
・自分からサーブが出せる時はリズムが取りやすい。
・相手からサーブを受ける時は失敗してもいいやという気持ちと、意識してグリップをゆるゆるに持つようにする(中指を力まない)
・それでもうまくいかない時は、バックハンド(B)練習から始める(少ししたら、BBFBBFBFBFFFFみたいに)
・できることなら、信頼できる友達に自分の症状を理解してもらって、失敗を連発しても申し訳ない気持ちにならないようにする。
こんな感じで、今は随分気持ちが楽になりました。特に壁打ちは効果大でした。
私と同じように、卓球は好きなのに精神的にきついから断念しようかと思ったことのある人が意外と多いということを知ってからは、やめようとは思わなくなり、なんとか克服して楽しみたいと思うようになりました。
上記の中で、相手からサーブを受ける時は失敗してもいいやという気持ち・・・
というのを、卓技研さんのアドバイスを読んで改善してみたいと思いました。
できれば、試合で一球目から自信(確信)を持ってリターンできるようになりたいですから。
相手サーブからの123のリズム実践してみようと思います。
最後に質問ですが、卓技研さんは卓球イップスの克服法で、これだけは気を付けるようにということがあったら教えてください。
長くなってすみません。色々とありがとうございました。
再卓
再卓様
Q&Aの感想ありがとうございます。
卓技研のイップス克服法について展開します。
イップスはゴルフから発祥した言葉ですが、トッププロがパターを打てなくなったことから名づけられました。イップスは緊張感によって、ある特定の行為に支障をきたすようなことを指す場合で、まあ、いわゆるビビッた状態が特異的に固定されたものでしょう。
その特徴は、再卓さんが書いておられるように、手や腕がぎこちなくなることです。手は脳の「出先器官」といわれるように、脳の影響をもろに受けやすい器官です。脳、つまり自律神経系が緊張感によって変調することで、その影響が手に及ぶのです。
心理学的には自我の影響を手は受けやすいのです。私は「手は自我の手先」といってますけど。自我は勝ちたいとか、いいとこを見せたいなどと思いがちなのです。ところが、実際の卓球は自我の思惑とはまったく別のものであり、身体の無意識的な動きと自我のはからいがバッティングして、腕や手首ががちがちになったりするのです。
この手の問題は、いわば動物の範疇のなかで人間最大の特徴です。ですから、イップスの問題は、人間の根本的な問題だといっても過言ではないのです。
人間は緊張することは嫌だと思っても、それでもわざわざ、極度に緊張する試合に出かけていきます。
これはどういうことでしょうか。嫌なのに、その嫌な場に出るというのは。試合に出るという人は、無意識的に試合のような場を希求しているのです。本心はそういう場が、楽しくてしようがないのです。ですから、そういう本心をまずしっかりと認識することです。
人間は脳が発達し自我を有するので、他の動物はちがった緊張を抱くことを理解します。緊張するのも、イップスになるのも、みんな人間特有の、誰にでもある特徴だと考えます。そして、その緊張やイップスは、みんな自分が招いていることなのです。
ですから、そういう自分の精神状態を、もう一人の自分が客観的に見つめるのです。ああ、おれはビビッているなあと。そして、そんな自分をいとおしく、笑ってしまえばいいのです。
試合というのは、身体的な活動を競いあうだけの場ではなく、そういう自分の精神状態を見つめる場であると考えてください。緊張感に圧倒され支配されてしまうと、自分のプレーができずに、試合後も後味のわるいものになります。ところが、ほどよい緊張感は、集中力を高め、ふだんの練習では味わえない深い喜びをもたらせ、また驚くようなパフォーマンスも生まれます。長嶋茂雄は「緊張感を楽しめないとだめだ」という趣旨の発言をしていますが、
緊張感を楽しめたからこそ、長島のあの天才的なプレーが生まれたのでしょう。
以上のことを理解されたうえで、
1 自分の精神状態をもう一人の自分が俯瞰してみる
2 意識を頭や思い、考えではなく、臍下丹田に集中させる
3 ゆっくりと、臍下丹田を意識して深呼吸する
4 手から打球するのではなく、足から動いて、スイングは腰から始動する
5 ボールを眼球の動きでとらえるようにする
6 サービスを出すとき、投げ上げを「1」、頂点を「2」、打球を「3」と、確認しながらゆっくりとやる
7 レシーブは、足から始動するように意識する
8 試合中は結果を考えない。勝ちを意識したら、そんな自分を笑ってやる
9 緊張を楽しむ
10 以上のことを練習のときから意識する。こういうことも大切な練習であると認識する
以上のことを参考に、ご自分のなりにアレンジして、自分オンリーのメソッドを開発されてはいかがでしょうか。
よく、オリンピックに出場する選手が、試合前に「楽しんできます」と言いますが、本当に試合を楽しめればベストパフォーマンスができることを知っているからです。
結果ではなく、そのプレーそのものに集中して、夢中になって楽しむ。そうできれば、結果はしぜんについてくるのです。この「楽しむ」とは普通の楽しむではありません。苦しいなかにある楽しさなんです。スポーツだけにかぎらず、仕事でも研究でも勉学でも、深い喜びや楽しさには苦しさが伴っています。
ですから、イップスとは、このようなことの象徴的な状態ではないでしょうか。
卓技研・秋場龍一
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