静かな気持ちでボールを眼球で観察する

 今回は当サイトに寄せられた質問メールに答えることで、
集中論を述べたい。

格下の選手に負けたらどうしよう……

 はじめまして、卓技研様。
 自分は今週の土日で中体連に出場する中学生三年です。しかし今自分は中体連に向けて大きな不安をもっています。自分はいつも試合となると悪い消極的な癖がでてしまいます。まず一つは、「自分より弱い選手に(格下)負けたらどうしよう」と、弱気なプレイで攻撃出来なくなったり、アガってしまったり、本来の自分の卓球が出来なくなったりします。
 またさらに中体連は引退試合なので「これで引退なのに早々負けたらどうしよう。格下に負けたらどうしよう」ととても消極的になってしまいそうで不安です。どうすればいいでしょうか。引退試合は絶対にクイを残したくないので、しっかり自分の卓球をしたいです。どうかチカラを貸して下さい。

試合は技量とともに集中力も競い合う場

 あなたは、「自分より弱い選手に(格下)負けたらどうしよう」という不安で、自分の卓球ができなくなると述べています。あなたが、自分より弱いというのは、おそらく技量のことですね。仮に、あなたが言われるように、相手の技量が格下だとしても、「相手のすべて」があなたより弱いとは断言できないのではないでしょうか? なぜなら、あなたは、自分で言われるように、自分の卓球ができないのですから。集中論でも述べましたように、試合とは技量とともに、集中力を競い合う場でもあるのです。集中する能力もふくめて、強いか、弱いかが試される場が試合なのです。ですから、技量的にたとえ相手が格下であったとしても、試合で負ければあなたのほうが弱いし、格下になります。
 ほんとうに強い選手というのは、たとえ技量の面で圧倒的に格上でも、試合には、「強い気持ち」「一瞬でも油断しない持続力」「細心の注意をはらって」など、集中力においても相手より勝るようにのぞむものです。そして、たとえ、前回対戦して、楽勝した相手でさえも、前回とは違うサービスや作戦を練るなど、前回に相手にあたえた自分の情報とは別の技術や戦術をもってたたかうこともあります。

自分自身を見つめる

 また、「格下、格上」、「引退試合」ということは、卓球のプレーそのものとは、何の関係もありません。あなたが、自分自身で勝手にそう思って、試合にのぞもうとしているだけなのです。あなたは、もしかしたら、周囲の目を気にしているかもしれません。こんな格下の選手に負けたら恥ずかしい……といった。こういう気持ちは、あなたの「自我」がそう勝手に思っているだけなのです。はっきり言うと、そんなあなたの自我は「未熟」なのかもしれません。とはいえ、あなたの自我が成長していることは、このメールから知ることができます。あなたは、自分が格下の選手と対戦すると自分の卓球ができないと、はっきり認めているからです。あなたは、自分を客観的に観察し、自分の性格を分析したのですから。自我の成長とは、自分自身を見つめることです。それをあなたができたからこそ、こうしてメールを出したわけです。自我の成長とはイコール、メンタルの強さを意味します。あなたは、以前の自分よりも確実にメンタルが強くなっています。

「いま」にいるメソッド

  さて、そうはいっても、やはり人間が自我をもった動物であるかぎり、「勝ちたい」という気持ちを捨てるわけにはいきません。いや、試合に出る人が「勝ちたい」という前提があって、試合というゲームは存在しています。勝負というモチベーションを否定することなど、試合に出る以上否定することはできません。
 問題は「勝ちたい」という気持ちによって、自分のプレーができなくなることにあります。では、どうすればいいのか? 集中論でも述べましたように、「いま」にいることです。「格下の選手に負けたらどうしよう」「これで引退なのに」という気持ちは「未来」の問題です。試合でのプレーは「いま」の連続のなかでおこなわれますから、未来に思いをやると、「いま」に集中することができなくなるのです。では、どうすれば「いま」にいることができるのでしょうか?
 この1つの答えを今度の集中論で展開する予定でした。でも、こうやって、メールをくださったのですから、そのエッセンスを一足速く紹介しましょう。
 それは「視線をコントロールする」ことです。この練習方法は簡単です。ボールを眼で追うのです。そんなことはあたりまえ、ボールはいつも見ていると思うでしょう? いや、あなたは「ほんとうにボールを見ていない」のです。なぜなら、ほんとうにボールを見ていたら、「いま」に集中して、「格下に負けたらどうしよう」などと余計なことは考えないからです。 

眼球の動きでボールを観察するように観る

 ほんとうにボールを見るコツがあります。それはボールを「眼球」で見るようにすることです。そして、ボールを見るんだと力んで見てはいけません。静かな気持ちで、ボールを眼球で追いかけるように見るのです。見つめるのではなく、観察するようにとらえるのです。いわば「見る」より「観る」のです。これは、剣豪宮本武蔵も同じことを語っています。
 ためしにフォアロングを打つとき、眼球の動きでボールを観てください。毎球、ボールのマークや微妙な回転の変化もしっかりとらえてください。実に簡単な練習方法でしょう。これさえ、持続的にできれば、あなたは「いま」にいることができて、ものすごく集中することができます。とうぜん、メンタルも強くなります。でも、これは実に簡単にできるメソッドですが、これをつづけるのは大変な努力が必要なのです。実は宗教的な修行も、これと同じような訓練がおこなわれるのですから。
 試合でびびったたときに集中できる秘訣があります。勝ちたいとか、作戦とか、いっさい頭で考えることはやめにして、なにも考えず静かな気持ちで、「来たボールをただ眼球の動きで観る」のです。プレーをするのは、あなたのなかにある隠れた能力がかならずやってくれます。「自分を信じる」という、ほんとうの意味はこのことなのです。

                    (秋場龍一)

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