レシーブは「フォーカスイン」で集中する

実戦で重要なレシーブ力

 卓球のいちばんむずかしいパートが、レシーブといってもいいだろう。また、レシーブの体勢や間合いで、そのプレーヤーが、どんなタイプか、ほとんど判断できるものだ。はじめて対戦する相手が、どんな卓球がしたいのかを知りたければ、そのレシーブをよく観察すればよい。プレーヤーの卓球キャラは、レシーブにもっとも表現されるのである。
 とくに、レシーブでの立ち位置が重要なポイントだ。たとえば、韓国の朱は、カット主戦型ながら、かなりバックサイド寄りに立つ。朱のプレーパターンは、バックはカット、フォアはドライブと、これまでのカットマンのイメージを変えたが、このレシーブの立ち位置が、そのスタイルを集約的に象徴している。
 レシーブは、多くの技術を必要とする。たとえば、ドライブ攻撃タイプなら、フォア・バックハンドのツッツキ、フリック、ドライブ、強打を、カット主戦型ならそれにカットがプラスされる。しかもツッツキでは、ストップやサイドを深く突くバックスピンやプッシュ性の攻撃的なツッツキなども必要である。
 相手のサービスが強力な場合、相手コートに入れることすらむずかしいこともあるし、入れても甘い球なら相手の3球目攻撃一発でやられてしまう。また、逆に相手のサービスが甘ければ強打やドライブでレシーブの2球目攻撃も必要となる。
 レシーブは、サービスにたいして、まずそのスピンやスピード、コースを瞬時に判断し、3球目をふせぐリターンか、攻撃的リターンなのかをきめ、どの技術を使うのか、一瞬のうちに決定しなければならない。


レシーブは深い集中とリラックス

 このような、相手サーバーが繰り出す変幻自在のサービスにたいして、ミスがなく、正確かつ攻撃的にレシーブするには、何が必要なのだろうか?
 これはズバリ、深い集中である。ただし、深い集中とは、「ヘタな気合い」とは別のものだ。ヘタな気合いを込めることに比例して、凡ミスが増加する。
 そんな、やたらヘタに気合いを込めるプレーヤーを観察してみると、眉間に深いシワが寄り、頭はサービスを出すボールにヌーと伸びている。ところが、これが深い集中から遠ざけているのだ。
 深い集中とは「平静な心境」であって、そんな眉間にシワを寄せるような、張り詰めた状態ではない。ほんとうに深い集中は、リラックスした状態である。そして、何よりレシーブには、リラックスが必要である。
 眉間にシワを寄せることで眼球の動きを硬くさせ、集中に大切な視線のコントロールを狂わせてしまうのだ。また、頭が前に突っ込むことで、レシーブの始動が遅れ、凡ミスも出やすくなる。

アゴを前にだす

 では、リラックスするためにはどうすればいいのだろうか? それは前述したように、グリップをできるだけソフトに握り、上半身とくに肩甲帯の力を抜くことである。よく「肩甲骨打法」と呼ばれ、肩甲骨を支点にフォアハンドを打つことが大切だといわれる。たしかに、フォアハンドは肩甲骨を支点にすべきである。その理由については、いずれ「技術論」で展開しよう。実は肩甲骨は肩甲帯という、もっと広い範囲で一体となって動いている。
 この肩甲帯をリラックスさせるには、アゴのかまえが重要なポイントだ。ほとんどのプレーヤーは、レシーブでアゴをひいてかまえる。なぜなら、集中しようと思って、そうなってしまうのだ。サービスのボールに集中しようとすると、みんな無意識的にアゴを引いてしまうのである。だが、アゴを引くと、肩甲帯が緊張してしまって、指先、手、腕全体を硬くさせてしまう。
 レシーブのときは、アゴを引かないで、むしろ少し前に出すくらいがいい。ちなみに、400連勝無敗というブラジルの格闘家ヒクソン・グレイシーのファイティングポーズは常にアゴが前に出ていた。
 そして、何より、上半身の力を抜くには、下半身をリラックスさせることである。レシーブで集中しようと、下半身をがちっと固めると、上半身が緊張するのだ。そのお手本がイチローである。イチローほど、下半身を柔らかくしてかまえるバッターもいない。
 次に、丹田を意識して、ここを身体全体のセンターにおく。丹田とは、へそから5センチほど下のあたり。レシーブは、まず、アゴを前にだし、下半身を柔らかくし、丹田を意識してかまえることが大切だ。

ボールにすーとピントを合わせる

 さて、ここからが今回の最重要テーマである。
 相手サーバーがサービスをだすために、手の上にボールをのせるのだが、このとき、そのボールにすーと視線を合わせる。ちょうどカメラのピントを合わせるように、眼の焦点をボールに合わせるのだ。よくテレビや映画で見かける、ぼけた状態から、対象にすーとピントを合わせる「フォーカスイン」という映像手法と同じである。
 この視線コントロール法を覚えると、しぜんに平静な心境で集中することができる。ただし、眼に力を入れないこと。目玉をリラックスさせて、ボールにやさしく焦点を合わせるのがコツだ。このとき、再度注意するが、頭を前に突っ込まないこと。
 いよいよ、サービスがでた。前述したように、眼球の動きで飛んでくるボールをとらえるようにする。
 そして、手からではなく、足からボールが飛んできた方向に動くことを意識する。手から始動しようとするほど、手が緊張して、凡ミスが増える。手ではなく、足から始動することで、手の緊張がゆるみ、どんなサービスでも、リラックスしてレシーブすることができる。心配しなくても、手が遅れることは絶対にない。安心して、足から始動することを意識しよう。
 これで、どんなスピン、スピード、コースへのサービスにも、余裕をもってリターンできるだろう。実戦で強くなるためには、サービスと同様に、レシーブの向上が必要である。ぜひ、この「フォーカスイン」の視線コントロール法でレシーブ力を高めよう。

                    (秋場龍一)

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