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本サイトに寄せられた質問におこたえするというかたちで、試合や練習でのあがり対策と集中法について展開してみました。

質問させて下さい。技術というよりも精神面に関してなのですが。
 私は極度のあがり性で、実はこの10年来というもの練習の最初の5分間位は全くまともにボールが相手に行きません。「あ…まただ」と思うと余計にイップス病のように。試合になるとツッツキばかりで全然打てなくなります。練習時間もあまり取れない50代ですが末永く卓球を続けて自分を変えて行きたいのです。何かアドバイス等ありましたら お願い致します。

A 「極度のあがり性」ということで、メンタルについてのご質問ですね。では、極度のあがり性の「あがる」とは何か考えてみましょう。よくあがる場面とは、人前で何かをやることです。たとえば、面接やテスト、それに試合などでは、ほとんどの人があがるのではないでしょうか。あがるというのは、その個人にとって何か特別なことをしようとするときになるものです。なぜなら、日常では一日24時間、あがりっぱなしの人はいませんし、もしそんな人がいるとしたら、それは病的でまっとうな日常はおくれないでしょうから。卓球するときに「あがる」あなたは、卓球が「特別」なものではないしょうか。あなたにとって卓球は特別に大切なものとか、あるいは人前でうまく見せたいとか、試合で勝ちたいとか。
 しかし、こういう「あがる」こと、とくに大切な試合の初戦や2回戦あたりでは、どんなに上手なプレーヤーでもあがるものです。たとえば、第1シードの選手とその下のわくにいる上手ではない選手とが対戦するとき、第1シードの選手のほうが緊張しているかもしれません。なぜなら、彼は負けられないからです。そして、どんなに上手な選手でも、初戦は身体がかたくて調子がでないものです。
 ですから、あがってとうぜん、誰にもあるごくあたりまえのことと考えてください。
むしろ、試合は緊張するから面白いのかもしれません。あがって、ほんとうにいやなら、試合には最初から出ないでしょうから。まず、大切なのは、だれでも、どんなに上手な選手でもあがり、緊張するんだということを知ってください。それを知って、理解したうえで、その「あがり対策」を考えてみましょう。

 緊張することを「あがる」といいます。では、なにが「あがる」のでしょうか? それは自分の気持ちや気分、心の居場所、意識が、頭にあがるからではないでしょうか。
あがっているとき、なにか頭がもやーっとしていませんか? では、「あがる」の反対語はなんでしょう? そう「落ちつく」です。「あがった気持ちを落ち着かせる」などというように言いますものね。落ち着くということですから、頭にのぼった意識をそれより下に向けるということです。
 それはどこでしょう。肚を据えるといいますが、意識や気持ちがもっとも落ち着く場所は「肚」つまり「腹」なのです。この場所を中国では特別な場所として、「丹田」と言いました。丹田とはヘソの五センチほど下にあるとされます。人間の身心の中心であり、気というかエネルギーのみなもとであるされています。ほとんどの呼吸法や瞑想、ヨーガなどでは、この丹田を意識しておこないます。
 もう、おわかりですね、あがった意識は、腹(丹田)に下げることで、落ち着くのです。練習や試合の前には、丹田(腹式)呼吸法をおこなうことであがった意識(心)を下げてみましょう。その方法はいたって簡単です。

1.座って眼を閉じる。
2.鼻から息を吸って、腹(丹田)に入れる。
3.そこでいったん、ぐっとためる。
4.吸った息(空気)を口から.ゆっくりと吐く。
5.意識は呼吸することに集中する。雑念が浮かんだら、その都度、呼吸に意識をもどす。
6.これを6回、約2分かけておこなう。

 この呼吸法は多くのスポーツの練習や試合の場で採用されているもので、いまやスポーツの心のウォーミングアップのようなものです。医学的には、このように呼吸することで、交感神経と副交感神経が調整されるとされています。緊張とは交感神経が優位になりすぎるということです。

 心のウォーミングアップのあとは、身体のウォーミングアップをやりましょう。残念ながら、卓球では、練習や試合の前にウォーミングアップをする人が非常にすくないのです。でも、ウォーミングアップを怠ったために、アキレス腱を切ったり、ヒザを痛めたり、腰をわるくする中年以降の選手をこれまで数えきれないほど見てきました。ヒザにサポーターをあてている中年女性のなんと多いことでしょうか。ヒザは足腰の筋力の低下とともに、股関節の柔軟性の欠如によってもおこります。ウォーミングアップをすることで、関節をスムーズに動かすための滑液という、いわばクルマのエンジンオイルのような潤滑油が産生します。
 そして、身体のウォーミングアップは、身体だけではなく、心のはたらきも潤滑にするのです。脳が緊張すると、たちどころに筋肉に影響をおよぼし、筋肉も緊張するのです。つまり、「あがる」ことは、身体を動かす筋肉も緊張することなのです。よく緊張して、「かたくなる」といいますが、「あがる」と「かたくなる」とは同義語に近いものです。かたくなるのは、筋肉がかたくなり、スムーズに身体がうごかなくなり、その結果、何でもない球を凡ミスすることにつながるのです。ですから、練習や試合の前には、かならずウォーミングアップをおこないましょう。

 さて、いよいよボールを打つことにしましょう。さあ、集中です。でも、まだあがっているかもしれません。あがるということは、集中できていない状態です。集中するということは、プレーそのものに身心が向けられるという状態です。しかし、あがるとき、ボーとしていたり、頭が真っ白になっていたり、あるいは、試合に勝ちたいとかいいとこ見せたいとか、いろいろな思いが心の中に渦巻いています。このような心の状態は良いプレーの妨げとなります。
 なぜなら、プレーとは「いま、この瞬間」の連続であり、このような心の状態は、結果を求める未来にあるからです。集中とは、「いま、この瞬間にいる」ことなのです。
そのためのメソッドをご紹介します。
 それはボールを観察するように、よく見ることです。ただし、眼をかたくして睨みつけてはいけません。
眺めるようにソフトにボールを見てください。コツは眼球、めんたまでボールを追うのです。一打ごとにボールのマークを見るようにしてください。何にも考えずにただただボールを眼球でしっかりと、でもやわらかく捉えるようにしましょう。
 つぎに、打ち合っている以下の3つのポイントをしっかり確認してください。
相手が打った瞬間、その相手が打ったボールが自陣に着いた瞬間、そして自分が打つ瞬間です。この3つの瞬間を毎回、確実に確認してください。そして、この瞬間に、「イチ」「ニ」「サン」を口に出して言ってみてください。相手が打った瞬間に「イチ」、その相手が打ったボールが自陣に着いた瞬間に「ニ」、そして自分が打つ瞬間に「サン」と声を出すのです。機械的に「イチ、ニ、サン」と言うのではなく、かならずそのポイントをしっかりと確認して言うのです。
 この「イチ、ニ、サン・メソッド」は、卓球の練習としては、最高のものかもしれません。これがいつ、いかなるときにでも、「イチ」「ニ」「サン」と正確に確認することができれば、史上最強のプレーヤーになることはまちがいありません。これは簡単なようですが、じつはなかなか長い時間はできないものです。なぜなのか、ご自分で試されればわかることでしょう。この「イチ」「ニ」「サン」と正確にポイントを確認しているとき、あなたは「いま、この瞬間」にいて、プレーそのものに集中し、そうなれば、あなたの「あがり」は、落ち着くところに落ち着いているでしょう。

 まだ、メソッドはあります。ボールを打つ前、サービスを出す前、レシーブ体勢に入る前に深呼吸してゆっくりと息を吐いてください。そして、丹田に意識してください。
 もう一つ、ボールを打つとき、手(腕)からボールを捉えようとするのではなく、先に足から動いてボールを捉えるようにします。どんなときでも手は絶対に出ようとしますから心配はいりません。ボールが飛んできた方向にフットワークをつかって足から動くように意識してください。

 以上のことを実行すれば、「極度のあがり性」はきっと解消されるでしょう。そして、ほどよく緊張して、その緊張感を楽しむことができるようになるかもしれません。ちなみに、『卓球パーフェクトマスター』に付いている、別冊では「試合ですぐ役立つルール・マナー&必勝メソッド」で、試合に役立つ「試合前のメンタル調整法」と「ドタンバの緊急対処法」を載せていますから、参考にしてください。

                            秋場龍一

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